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神戸地方裁判所 平成5年(ワ)2153号 判決 1994年10月28日

原告

株式会社トム・ソーヤの冒険

被告

篠原真樹

主文

一  被告は、原告に対し、金三三万三〇〇〇円及び平成五年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一〇八万三三六七円及びこれに対する平成五年一〇月二二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成五年九月二五日午前二時三〇分ころ

(二) 場所 神戸市須磨区所在第二神明道路須磨料金所前

(三) 加害車 被告運転の貨物自動車(愛媛八八あ四九八)

(四) 被害車 原告会社代表者井植運転の普通乗用自動車(神戸三三つ二三六〇)

(五) 事故態様 停車中の被告運転の加害車が突然後退し、停車中の被害車に追突し、同車の前部が破損した。

2  責任原因

被告は、突然加害車を後退して停車中の被害車に追突させたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により受けた相当な物的損害を賠償する責任がある。

また、被告は、本件事故当日、原告に対し、本件事故の責任はすべて被告にあり、被害車の修理代、車装電話代及び右修理期間中の被害車と同等車種の代替車相当額の補償金を支払う旨約束し(以下「本件支払約束」という。)、その旨の念書を差し入れた(甲六、原告代表者及び被告各本人)。

3  損害の中の修理代金(原告の請求は三七万一三六七円のところ、被告が振込手数料を控除して実際に振込んだ金額は三七万〇六四六円〔乙一〕)。

4  損益相殺

原告は、被告から被害車の修理代金全額の支払を受けた。

二  争点

1  本件支払約束は、錯誤ないしは公序良俗違反により無効であるか否か。

2  原告の損害中、代車使用料及び車装電話代補償金

第三争点に対する判断

一  本件支払約束の効力について

前記争いのない事実に証拠(甲六、原告代表者及び被告各本人、弁論の全趣旨)を総合すると、被告は、本件事故当日、原告代表者と本件事故の処理について話し合い、同人の要求をそのとおりであると考えて本件支払約束の内容を受入れることとし、同人に対し、被告自身が少なくともその一枚目の内容の全部を記載し、署名して念書(甲六)を作成し、原告代表者に渡したことが認められる。

右によれば、本件支払約束は、社会常識上、錯誤ないしは公序良俗違反に該当するとはいえない。

二  損害について

1  修理代金 三七万一三六七円(前記のとおり争いがない。)

2  代車使用料(原告の請求額・六六万七〇〇〇円) 三一万五〇〇〇円

証拠(甲二、七ないし一三、一四の一、2、乙二の1、2、三の一ないし3、原告代表者本人、弁論の全趣旨)を総合すると、本件事故による被害車の修理日数は一八日間であつたこと、原告代表者は、原告の業務のため、右修理期間中、二、三日は現実に代車を利用し、その他は原告がレンタカー業者から年間リース契約を締結して借り受けている車両を利用しており、右修理期間中の代車使用料合計金は明確ではないこと、被害車と同等車種の一日当たりの代車料金は二万五〇〇〇円であること、原告代表者は、平成六年八月三日、原告の業務に従事して、原告の車両(BMW三二五、被害車であるBMW七三三IAよりも下級車)を運転中に追突され、その後、相手方との間で、代車使用料として、同等車種の代車使用料金(最高級国産車と同程度の一日当たり一万七〇〇〇円)を参考にして、原告がその修理期間中に代車の借受けに関係なく、一日当たり一万七五〇〇円の支払を受ける旨の示談をして、既にその支払を受けたことが認められる。

ところで、被害者が加害者に対し、代車使用料として賠償を求めうる範囲は、事故前における被害車の利用目的・利用状況、相当な修理期間、その期間中の代車使用の必要性の程度、被害車と代車との車格等を斟酌して定められるべきであつて、特に高額の代車使用料についてはその必要性が十分に検討されるべきである。

右認定によれば、原告主張の一日当たりの二万五〇〇〇円は、最高級国産車よりも高額であるうえ、原告代表者は、本件事故後、本件被害車よりも下級とはいえ同車種の車両に乗車していて本件事故とほぼ同内容の物損被害を受け、一日当たり一万七五〇〇円の代車使用料で示談契約を締結していることからすれば、本件においても同金額以上の代車使用料を認めることは相当でない。すると、本件における代車使用料は、一日当たり一万七五〇〇円で一八日間の合計三一万五〇〇〇円となる。

3  車装電話代補償金(原告の請求額・四万五〇〇〇円) 一万八〇〇〇円

証拠(甲二、乙二の2、原告代表者本人)によれば、電話付きレンタカーの電話付きオプシヨン料金は一日一五〇〇円であることが認められる。

右に前記の原告がレンタカー業者から年間リース契約を締結して借り受けている車両を利用しており、その期間の車装電話代をはじめ代車利用料金が明確でないこと等を加味して考察すると、一日当たり一〇〇〇円程度の補償をもつてするのが相当である。すると、車装電話代補償合計金は、一万八〇〇〇円となる。

4  損益相殺

原告が被告から被害車の修理費全額の支払を受けたことは、前記のとおりである。

三  結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、損害賠償金三三万三〇〇〇円及びこれに対する不法行為の日である平成五年一〇月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田勝年)

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